2.1. DNAを用いた論理素子(分子スイッチ)の開発

DNAの構造多様性を外部刺激によって自在に制御できれば、DNAを細胞内外で応用展開することが可能になります。例えば、分子スイッチや動的な分子構造体の構築、、機能性分子の配向化などです。将来的には、分子コンピューター、ナノマシーンやナノロボットの開発にもつながるかもしれません。image8

このような分子(DNA)を使った研究の中でも、注目されているのが論理素子(ロジックゲート)の構築です。論理素子は、情報処理の最も基本的なデバイスである。論理素子の小型化が、情報処理機器の高機能化と小型化に必要不可欠です。論理素子は、半導体の微細加工(トップダウン)技術によって作製されているが、その技術的・経済的限界が近いとされています。

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そこで、トップダウン技術に代わる方法として、ボトムアップ技術が注目されています。ボトムアップでは、分子の自己組織化を利用して、目的の形や機能を設計します。DNAは、他の生体分子と比較して、塩基配列から構造を設計することが容易であることから、ボトムアップアプローチに適した生体分子であると言えます。このような研究は、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーが融合した、ナノバイオテクノロジーの中でも多くの研究がすすめられています。特に、DNAを用いたナノテクノロジーをDNAナノテクノロジーと呼びます。

我々の研究グループでは、テロメア由来のグアニンに富んだDNA鎖とその相補鎖であるシトシンに富んだDNA鎖の構造を外部刺激で制御することを試みました。特に、細胞の中と外の環境の違いとして重要な、カチオン(M+)と水素イオン濃度(H+: pH)を用いてDNAの形成する構造を制御することを試みました。その結果、これらの外部刺激の有無によって、DNAの構造を四つの状態に制御することができました。これを利用することで、現在、半導体ロジックゲート中でも汎用されている論理素子(AND, NAND, OR, NOR, XOR, XNOR)の全ての論理応答を、テロメアDNAで再現できる
ことができました。詳しくはこちら5。

このようなDNAを用いたロジックゲートは、生体適合性が高いことから、生体への応用も期待できます。特に、今回用いた入力(外部刺激)は、細胞内外で変化する環境因子であることから、薬剤送達システムや機能性分子の制御パーツとしても利用できると考えられています。今後は、このような構造多様性を、分子集合体へと展開するとともに、細胞内での応用についても検討を進める予定です。

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